At Aftranoon Nap
―― ねむい・・・ ―― ねむい・・・ねむい、ねむーーーい!!! 「なんでこんなに眠いのーーーー!!!」 癇癪起こしたメイの悲鳴が元、倉庫の部屋に響きわたった。 しかし叫んだ直後、メイはがくっと机に力つきたように突っ伏す。 「・・・・・あ゛づい゛・・・・・」 机の上に申し訳程度に広げられたまったく進んでいない課題の上でメイは呻いた。 クラインは只今夏真っ盛り。 衣替え前にこの世界にいきなり召還されてしまったメイが来ている服は長袖のブラウスで・・・・いくら上のケープをはずして袖をまくりあげているとはいえ、暑さたるや想像を絶するものがある。 その上この元倉庫の部屋は風通しの悪いことこの上なくて、それが夜になっても全然かわらないから眠りも浅くなってしまう。 おかげで眠気と暑さのダブルパンチにメイはノックアウト寸前だった。 ―― しかも眠れない原因は暑さだけではなくて・・・・・ 「あーもー!こんな状態で課題なんてやってらんない!!!」 ぷつんっ!と切れた音が聞こえなかったのが不思議なほどの勢いでメイは立ち上がると部屋の隅に立てかけてあった箒をひっつかむ。 そしてばんっと窓を開けるなり、箒にまたがると短い呪を唱えた。 ふわっと風が渦巻いて、次の瞬間箒はいちもくさんに空へ舞い上がった。 ・・・・後にしたばかりの部屋のドアが乱暴に開けられたような気がしたのは、聞かなかった事にすると決め込んで。 しばし箒で風をきることで涼をとっていたメイだったが、あっというまにそれも暑くなってへろへろと郊外の湖の近くへ着陸していた。 なんせいくら風をきっていたって真上から遮るものもなくギンギンの太陽を浴びていれば暑いのはあたりまえだろう。 干涸らびる前になんとか湖の畔の木陰に逃げ込んだメイは、箒を脇において座り込んだ。 「はあ〜、極楽・・・・」 湖の上を渡る風を頬に受けてメイは思わず呟く。 これでもクラインは日陰に入れば大分涼しい。 ふああ・・・とメイは大きく欠伸をした。 (寝不足だもんね・・・) 原因は暑さ・・・だけでなかったりする。 眠ろうとしてベットに入ると暑くて眠れなくて、眠れなくなるとちらつくのは漆黒の影。 (隊長さん・・・・) 心の中で呟いただけで、きゅうっと鳴った胸にメイは苦笑した。 無口で無愛想で不器用で三拍子そろった無骨者の騎士隊長レオニス=クレベール。 最初に出会ったときは片手で抱え上げられるし、かと思ったら落とされるし、なんて奴だと思った。 人を寄せ付けないような雰囲気を全身から発しているような人だったから、自分には一番不向きな相手だと思って近づくのはやめようと思っていたぐらいなのに・・・・ なのに、シルフィスやガゼルに会いに行くたびに会ってしまう彼と話すようになって。 ・・・・いつの間にか惹かれるようになっていた。 いつからなんてわからない。 初めてちょっと笑って見せてくれた時、寂しそうな表情を見てしまった時、呆れたようにそれでも優しく見てくれた時、ほんのちょっとづつドキドキが溜まって・・・・溜まりすぎて眠れなくなるぐらいに。 ふあああ・・・・ メイはもう一度大きく欠伸をした。 (ああ・・・・ねむ・・・・・) 柔らかい影を風に揺らす木に寄りかかって、メイはゆっくり目を閉じた。 できれば彼の人に夢で会えることを願いながら・・・・ ―― その日、珍しくレオニスは非番だった。 とはいえ、別に用事があるはずもなく馴染みの骨董屋を何件かまわった後にブラブラと郊外の湖へ足を向けた。 普段から体を鍛えているレオニスにとってはさほど応える暑さではないが、それでも水辺の涼しさを感じるのも悪くないと思ったのだ。 思った通り湖は涼しかった。 同じように涼を求めて来ている人々を見ながらレオニスはふっと1人の少女を思いだして口元を緩ませた。 『隊長さーん!暑いよーー!』 数日前、そう言って風通しのいいレオニスの部屋でへばっていた大地の色をまとった少女。 あの元気の固まりのようなメイでも暑さには弱いのか、と妙に感じた覚えがある。 ・・・・ただいくら暑いとはいえ胸元をバタバタさせるのは、非常にやめて欲しいと思うのだが。 この間図らずも見てしまったメイの胸元の白さを思いだしそうになってレオニスは慌てて仏頂面に戻ると足を早めた。 (それにしても・・・・) ここ数日、暑い日が続いているが姿を見せない彼女は大丈夫だろうか。 レオニスがそう思った、その時だった。 かさっ・・・ 小さな草の音にレオニスはいつものくせで周囲に目を向ける。 そしてぎょっとするはめになった。 たった今考えていたばかりのメイが木の根本で丸くなっていたのだから。 「?!」 一瞬、具合でも悪くなったのだろうかという考えが頭を過ぎってレオニスは少女に早足で近づいた。 「おい?大丈夫か?」 ちょっと躊躇いがちに肩を揺すって言った言葉への返事は小さな身じろぎと穏やかな寝息だった。 レオニスはとりあえずほっと息をはく。 しかしすぐに眉をしかめた。 考えてみれば若い女がこんなところで無防備に眠っているなどもってのほかではないか。 ましてメイはクラインの女性の服装にはありえないほどの短いスカートをはいているし・・・なによりほんの少し微笑んだような寝顔はどうにかしてやりたくなるぐらい、可愛い。 (まったくこんなところで眠るなどなにかあったらどうするつもりだ。) 自分でそう思っておきながらレオニスは心のどこかが苛立つのを感じる。 自分以外の誰かが、この少女になにかしていたら・・・? 慌ててレオニスは頭を軽く振った。 (とりあえず起こさなければならないな。) どこか幸せそうに眠っているメイを起こすのは可愛そうな気がしないでもないが、さっきの想像が現実になるより何倍もましだ、とレオニスは少し強めにメイの肩を揺すった。 「メイ、起きろ。」 「ん・・・」 ネコのように丸くなっていたメイがむずがるように身じろぐ。 そして薄く目を開いた。 開いたものの、まだ寝ぼけている事は一目瞭然な視線を彷徨わす。 「メイ?」 そう問いかけて初めて彼の存在に気付いたようにメイの瞳がレオニスをとらえる。 そしてメイは、レオニスが今まで見たこともないほど嬉しそうに微笑んで囁いた。 「・・・・レオニス・・・・」 「!」 どくんっ 不意打ちの笑みと、名を呼ばれた事にレオニスは固まった。 その彼の額にまいたバンダナの端をメイは握るとぐいっと引っ張る。 「?!」 予想外の事にレオニスはあっさりバランスを崩した。 その唇に・・・・ ―― ちゅっ 「?!☆▼×※#◇!☆??!△★?!!!」 ・・・・レオニス=クレベール、これまでの人生でこれほど動揺したことはなかっただろう。 まさか憎からず想っている相手に、しかも少女に唇を奪われるなんて想像すらできない事態だ! なのにそのとんでもない事をやらかしてしてくれた相手は再び夢の世界へ舞い戻ってしまったらしく満足そうな寝息をたてている。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」 おそらく真っ赤になっているであろう顔を隠すように額に手をあてて、レオニスはしばし心を落ち着けようとした。 そしてふっとメイに視線を戻す。 相変わらずくーくーと幸せそうに眠るメイの寝顔に、レオニスは苦笑した。 (まったく、どんな夢を見ているんだろうな・・・・) 溜め息をついてレオニスはメイの隣に静かに座る。 すると人の気配にひかれるようにメイがころんっと寝返りをうってすり寄ってきた。 その前髪を少し躊躇った後、レオニスは梳いてみる。 それだけで速度を速める鼓動に苦笑してレオニスはそっと呟いた。 「メイ・・・・」 「ん・・・・レオ・・・ス・・・・」 夢の中で応える彼女の声はやっぱりどこか嬉しそうで・・・・ レオニスは飽く事なくメイの髪を梳きながら、少し意地悪く考えた。 (起きたらどんな夢を見たか聞いてみるか。) もし夢の中のできごととしてでもさっきの事を覚えていたらなんと言ってやろうかと考えながら、レオニスは眠るメイにも負けないほど柔らかい表情で彼女の寝顔を見続けていた・・・ ―― 久しぶりにぐっすり眠ったメイが目覚めて、側にいるレオニスに気付いて大慌てするのはこのしばらく後の事である♪ 〜 END 〜 |
― あとがき ―
ああ、久々に調子ずいて書いたと思ったらこんなお話になってしまった(><)
とにかくふとあの不意打ちのキスのシーンが書きたくて書きたくて前後はかなり
強引にくっつけてしまったようなもんです(スイマセン・汗)
キスの相手もシオン、シルフィス、レオニスの3パターン考えたんですけど、シオ
ンはそもそもメイが不意打ちでキスする前に絶対自分から襲うよね(^^;)
・・・・というわけでシルフィスかレオニスか、というところでたまたまレオニスの方
に天秤が傾いてしまったのです。
ちなみにタイトルの「At Afternoon Nap」とはそのまんま「お昼寝」という意味です。
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